仙台高等裁判所 昭和42年(ネ)460号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、被控訴人より控訴人に対する原判決添付目録(1)ないし(6)記載の不動産につき贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を被保全権利として、被控訴人が原裁判所(同庁昭和四二年(ヨ)第一〇号)に処分禁止の仮処分命令の申請をなし、同裁判所が同年三月一日、控訴人に対し、右目録記載の不動産につき譲渡、質権、抵当権、賃借権等の設定その他一切の処分の禁止を命する仮処分命令をしたこと、控訴人が同年四月一四日、右不動産のうち右目録(1)ないし(4)記載の各土地の所有権移転につき所轄県知事の許可を受けて訴外鈴木長教に対し右土地を贈与し、その所有権移転登記を完了したこと、前示原判決添付目録記載の不動産がその後、国土調査の結果、本判決別紙目録(1)ないし(7)記載のように変更されたこと、被控訴人が電気器具商を営み農業に従事するものでないこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、控訴人は、「被控訴人主張の被保全権利のうち農地の贈与契約に基づく所有権移転登記請求権については、かかる農地の贈与契約は県知事の許可を得なければ贈与の効力が発生しないのみならず、被控訴人は非農家であつて、右農地について県知事の許可を受け得る見込みがない。また、控訴人は本件処分命令前である昭和四二年二月一〇日訴外鈴木長教に右農地を贈与する契約をし、同年四月一四日所轄県知事の許可を受けて同年五月九日その所有権移転登記を完了したものであるから、被控訴人に対し、その所有権移転登記をすることは不可能となつた。これらのことは、本件仮処分命令を取り消すべき事情の変更に該当する。」旨主張するので判断する。
被控訴人は、控訴人から被控訴人に対する前示贈与契約は農地法第五条所定の県知事の許可を条件とするものであると主張するけれども、これを認めるにたる疎明がない。しかし、右贈与に係る物件中、別紙目録(2)ないし(5)記載の土地が農地である以上、特別の事情のないかぎり、右贈与契約においても、右農地に関する限り農地法第三条または第五条の県知事の許可を法定条件とし、贈与者は県知事に対し所定の許可申請手続をなすべき義務を負い、また、もしその許可があつたときは、受贈者のため所有権移転登記手続をなすべき義務を負担するに至るものと解するのが相当である。もつとも、被控訴人が電気器具商を営み、農業に従事する者でないこと当事者間に争いがないけれども、このことから直ちに被控訴人が右農地を取得するについての県知事の許可を得られないものと速断することはできない。なんとなれば、右許可をするとしないとは県知事の権限に属することであるのみならず、既に被控訴人に対する県知事への許可申請が却下されてしまつて許可を受ける可能性がなくなつてしまつたとの疎明もなく、また県知事の許可は必ずしも一個に限るべきものではなく、複数の人それぞれ許可がなされることもあり得るから、右農地の取得について鈴木長教が昭和四二年四月一四日県知事の許可を得たとしても、被控訴人に対する許可の可能性が現段階においてなくなつたものといえないからである。また、本件処分禁止の仮処分前である昭和四二年二月一〇日に控訴人から鈴木長教に対し右農地の贈与契約がなされたものであるとしても、それについての県知事の許可およびその所有権移転登記が右仮処分の登記後になされたものであることは弁論の全趣旨により明らかであるから、右権利取得をもつて仮処分債権者たる被控訴人に対抗し得ないものといわなければならない。さらに、控訴人が第三者たる鈴木長教に対し右農地につき県知事の許可を得て、その所有権移転登記を完了したからといつて、被控訴人との間の贈与契約に基づき、贈与者として県知事に対し許可申請手続をなすべき義務、および、もしその許可があつたときは、被控訴人のため所有権移転登記手続をなすべき義務を免れるものと解することはできない。
そして、本件処分禁止の仮処分に反してなされた控訴人から鈴木長教に対する所有権移転登記は、右仮処分が存する限り仮処分債権者たる被控訴人に対抗し得ないから、将来、もし被控訴人において右農地の贈与について県知事の許可を得れば、これを理由として控訴人に対し、右農地について贈与契約を原因とする所有権移転登記請求および鈴木長教に対して同人の所有権取得登記の抹消登記請求をなし得るに当るのである。そうしてみると、鈴木長教の所有権取得登記は事情の変更があつた場合に該当しないものと解するのが相当である。(田中隆 牧野進 井田友吉)